日本における中小企業・小規模事業者の経営者のうち約40%の経営者が65歳以上となっており、今後数年の間に、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることになります。
また、日本政策金融公庫総合研究所が実施した【中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)】では、中小企業のうち後継者が決定している企業は10.5%、廃業を予定している企業は57.4%という結果が出ています。
これまでの経営基盤を損なうことなく事業を継続・発展させるためには、事業承継で引き継ぐべき要素をしっかりと整理して、長期的かつ計画的に事業承継を進めていくことが重要になります。
事業承継で引き継ぐ3つの要素
事業承継では、後継者育成などを進めながら経営権を引き継ぐ経営(人)の承継、自社株式や事業用資産、債権債務などの資産の承継、経営理念や取引先などの人脈、技術や許認可などの知的資産の承継の3つの要素について計画的に承継を進めていく必要があります。
経営(人)
後継者の選定だけではなく、次期経営者として相応しい状態まで育成することや、従業員の立場や事業承継後の体制への理解を得るためにも、現経営者と次期経営者との対話が不可欠です。
また、知的資産に分類される許認可等には人的要件として特定の経験を必要とするがある場合があります。
例えば、建設業許可の経営業務の管理責任者(5年)や実務経験による専任技術者(10年)など許可要件を満たすための人材育成に5~10年と長期の経験が必要な場合があるため、注意が必要です。
資産
大別すると「お金」と「モノ」になります。運転資金や借入金の他、設備や不動産などが含まれますが、中小企業の場合は、個人資産と法人資産が混在しているケースが多く、しっかりと整理しておく必要があります。
また、自社株式については、相続や贈与についてはもちろんのこと、経営権の分散リスクについても検討していく必要があります。
知的資産
経営理念や、信用・人脈など、目に見えにくい経営資産(=会社の強み)が知的資産にあたります。
顧客や取引先などの関係資産と、技術力やノウハウ、仕組みなどの組織資産があります。従業員との信頼関係も知的資産の一つとして、計画的に承継できる様に準備することが円滑な事業承継に欠かせません。
事業承継計画の策定について
従業員の雇用や、取引先との信頼関係など、会社が周囲に与える影響は小さいものではありません。事業承継は、【単なる経営者の交代】ではないことをあらためて認識しておく必要があります。
事業承継を着実に進めていくためには、具体的な事業承継計画を策定することが効果的です。自社の中長期的な経営方針や目標などを設定しながら、その中に、事業承継の行動計画を盛り込むことや、経営者と後継者が共に事業承継計画を策定することで、より円滑に事業承継を実施することが可能になります。
事業承継計画の作成に必要な作業は大まかに以下の通りになります。
【ステップ①】自社の現状を分析する
事業承継にあたっては、自社の経営状況を把握することから始める必要があります。
事業・資産・財務などの見える化を行い、事業を維持・成長させていくための仕組みや、他社との競争力を確認しましょう。
【ステップ②】今後の環境を予測する
事業承継を実施した後も継続的な成長を実現するために、自社の分析も踏まえた環境の変化を予測し、事業の将来性を分析する必要があります。
現在の事業を継続していくのか、事業の転換を図るのかなど、予測される環境の変化への対応策を検討しましょう。
【ステップ③】事業承継のタイミングを検討する
事業承継の方法や、タイミングを検討しましょう。
自社の状況や、経営者の年齢、後継者育成に必要な期間などを整理し、余裕を持ったスケジューリングをすることが望まれます。
【ステップ④】目標を設定する
売上や利益、マーケットシェアなど具体的な指標ごとの中長期的な経営戦略についての目標を設定しましょう。客観的な数値目標を設定することは、経営者と後継者の共通認識を図る上でも役立ちます。
【ステップ⑤】課題を整理する
後継者を中心とした経営体制へ移行する際に、解決すべき課題を整理する必要も出てきます。資金調達や専門家への相談など、具体的な要素を盛り込むことで計画的な事業承継が可能になります。また、中長期的な時間をかけて事業承継を実施する場合には、計画実施の際中に新たな課題が見つかることも多々あります。経営者と後継者で情報を共有し、事業承継計画を適宜見直すことも重要です。
事業承継の方法
事業承継は、誰が引き継ぐのかによって大きく3つに分類されます。
親族承継
経営者の配偶者・子・兄弟など、親族が事業を承継するケースです。
関係者からも心情的に受け入れやすいほか、後継者の早期決定・育成の準備期間を確保できるなどのメリットもあります。
相続等によって、株式を移転できるメリットもありますが、相続人が複数いる場合には、経営権が分散するリスクもあるため、遺言書など予め準備する必要があります。
親族外承継
経営者の親族内に後継者として適任な者がいない場合に、従業員や取引先からの招聘によって事業承継をするケースです。
会社の内外から幅広く候補を求めることができるほか、会社に長期間勤務していた従業員を後継者にできた場合には、経営の一体性を保ちやすいメリットがあります。
一方で、相続等で株式の所有権が移転できる親族承継とは異なり、後継候補者が株式を取得するための資金力が必要であることや、経営者個人の債務保証の引継ぎに課題が残るなどのデメリットもあります。
M&A
事業の存続を目的として、戦略的に事業の売却や、他社との合併を行うケースです。
外部に幅広く候補を求めることができるほか、経営者が会社売却による利益を得ることができるメリットがあります。
買取価格や、従業員の雇用確保等の希望条件を満たす買い手を見つけるのが難しい場合や、経営の一体性を保つことが困難な場合もあるので、慎重な検討が必要です。